俺たちみんな、怖かったのさ
●敵からの発砲もあった?
ああ、どちらもだよ。二方向からだ。いつもこちらに向けてという訳じゃなかったけど、そういう時もあった。かなり厄介だったよ。でもしばらくして、発射地点が近いか、そうでないかを判別できるようになった。空気を伝わる音を聞いてね。鋭いビシッて跳弾音なら近くで、シューンって音なら遠く、って感じに。僕らは、自分たちがしている事に順応し、学んでいったんだ。
●それに慣れることはなかった?
ある種、常軌を逸した理で僕たちはリラックスしていた。ほんとは現実逃避したい気分だったけどね。僕はそれを乗り越えた。最初の弾丸が発射されたその瞬間から、僕はそこに居たくなかった。僕にはやるべき任務があり、それを首尾良くこなしたかったけど、でもそこには居たくなかった。そこに居たかった奴なんていやしない。この仕事はクールでもないし、楽しくもなかった。
●じゃあ実際の戦闘区域には何度も?
そう。休養していない時は毎日さ。あの辺はいつも戦闘区域だった訳じゃないけどね。地元の人たちもまだその辺にいたし。
●現地で困難なシチュエーションは経験しましたか?
それはおそらく、僕が現実に、初めて誰かを撃たなければならなかった事だな。今までにない位に最悪な恐怖を感じたよ。いくつかの最高に悪い夢を一個に束ねてロールした感じだ。寒気がするよ。最終的には「殺るか、殺られるか」だ。撃った時の気分は、、、何か説明できる様な物じゃなかった。ゴミくずみたいな気分さ。クソみたいなね。心理的には立ち直ったとは思う。でもあの感じ、あの瞬間、、、気持ち悪くなった時の気分はずっと覚えているよ。
●それがはじめて人を撃った時の気持ち?
そうだ。「ああ、誰かを攻撃しなくちゃいけないんだな」と思ったよ。あと、何度見ても見慣れないのは、、、まあその話はよそう。誰かを埋葬しないといけない事もあった。これは本当につらい事だよ。
●民間人はどんな感じだった?
地元の人はとても良い人たちだった。多くの人々が、どんなに辛くても、起こるべき事だった、と言っていた。彼らは、「これ」が起こってよかったと思っていた。なぜなら、僕らがバスラに入ったとき、バース党が支配していて、それが良くなかったのさ。たぶん、確かではないけれど、彼らはスンニ派のイスラム教徒で、他の宗派のムスリムや彼らに対してバース党はずいぶんひどい事をしていた。彼らはかつてサダムの法に従っていたが、サダムがいなくなってからは、個々の宗派が代頭しようとし始めた。それらのグループの連中や権力者たちがどこからともなく現れたのさ。大抵の人々が何かを望んでいても、そういう事は連中に関係なくて、めちゃくちゃにされるって事がなんとなく僕にも判りはじめた頃だった。どこかの誰かが、急進的な物の見方を押し上げたのさ。それから僕たちは、通常の「戦う」戦闘部隊からうってかわって、タクシーに乗り込んでハンドグレネードをこっちに投げてくるような奴らに攻撃されるようになった。想像できるか?戦闘服も着ていない、ぱっと見た感じは民間人だ。奇妙で、曖昧な感じさ。なにが起こってるのかも判らず、兵士たちの士気も下がってくる。敵だと判っている奴と戦うように訓練は受けたが、こんな状況に対処する訓練は受けていなかった。奴らはゲリラ戦の戦術を効果的に使ってきて、僕はかなりまずい状況にいたよ。
●困難な選択を迫られる事はあった?例えばほんの数秒、数分先を左右する様な?
それは、常にだよ。何をすべきかをよく考えるのに、十分と言える時間はまったくなかった。本能の赴くままにくぐり抜けた。ある者はその本能を持ち合わせていて、ある者は持っていない。凍り付いたようになっちまう奴もいる。僕は自分の仲間たちを見た。大柄でタフそうな連中もね。あいつらはシドニーのパブに座らせても、みんな何も怖い物なしの連中だよ。でも、すぐに判る事さ。実際の戦場では使い物にならなくなるんだ。何がなんだか判らなくなって、勘も働かなくなる。フリーズするのさ。考える時間がなかった事も、過ぎた事だ。でも間違いなく、「本能」だよ。ただ、それに従って行動するだけだ。僕はそうした。普段からそんなに考える奴じゃないけどね(笑)あまり考えた事もないよ。実は子供の時にしたイタズラがイラクで役に立ったのさ。例えば大人から逃げたりするようなね。そういうヤバい時には人間ってものから遠ざかるんだ。それで少しは強靭になったよ。ともかく、臨機応変さ。
●常識が一番役に立ったんですね。
そうさ。いつでも大まじめに、生き延びる事に真剣だよ。何よりも、生存する事が僕にとって大事だったからね。でも言っておくけど、それは自己中心的な意味じゃなくてだよ。僕はいつでも仲間を気にかけている。僕の小隊にも僕の部下たちがいるからだ。で、俺たちの中で、まだ誰ひとり撃たれた奴がいなくて、毎日その事を神に感謝しているよ。もし僕の小隊の誰かが殺されていたらどう耐え抜いていいか判らないよ。。
●任務の最中に恐怖を感じた?
怖かったかって?そりゃあもう。間違いなく、クソ恐ろしかったよ。
●その状態は毎日?
毎日じゃないけど、ほとんどの日はそうだ。徐々に落ち着いていったよ。恐怖に対処できるようになったんだ。はじめの頃は、恐怖心が僕をとても強く支配していたけど、最後の方になると、もう何事にも動じなくなっていた。無敵になった訳ではないけど、そういう恐怖に打ち勝てるようになるとは思っていなかったよ。でも心理テストは受けたし、僕は大丈夫だってことも判った。だからそんなに悩む事じゃないんだけどね。たぶん、僕たちはみんな、経験を積んだ古参兵になったと言えるだろうね。
●それって、より物理的に恐怖を捉えるようになったという事?
そうだ。僕はそれをコントロールできなかった。でも前ほどは面食らう事もなくなったよ。恐怖という物を押しのけたり、楽観視したり、そういう事はなかった。恐怖はただ、そこに存在するんだ。でもそれは最初みたいに、怖いって事が頭の中を埋め尽くす様な感じとは違ったよ。でも、怖かった。俺たちみんな、怖かったんだよ。










